恋愛 俺のこと好きだろう

今日はバレンタインデー。
世間では女子達が浮足立っている。

最近では友チョコなんてものが流行っているらしく、女の子同士でチョコを贈り合う。
どう見たってお菓子会社に乗せられてる気がしなくもないけれど・・・・
あたしにも女同士の付き合いってものはある訳で。

飲み仲間の悪友(?)はさておき、同僚の女の子達にはチョコを準備済み。
やっぱり仕事は仲良くやっていきたいし。
これくらいで人間関係が上手くいくのならお安いモノだ。

特に今年は、女子のあたしへの当たりがキツイから尚更張り切って準備した。

お陰で男性同僚への義理チョコは、かなり適当。
まぁ、どうせ義理なんだからどんなのでもいいだろうと思って、お手頃値段の市販のチョコを用意。
因みに友チョコは手作りだったりする。



それにしても今日は朝から変な意味で忙しい。

「三条さーん」

あ、またきた。

「はい、これ。」

にこにこ顔であたしに小さな包みを渡してくる。
どうやら友チョコらしい。

「あ、ありがとうございます。」

私もお返しに、友チョコの包みを一つ手渡した。
――――で、この人、誰だっけ?
顔は見たことあるけど、名前が出てこない。

「経理部の百瀬真奈美です。」

あたしの考えていることがわかったかのかな?
百瀬さんはそう名乗ると、にっこりと天使の微笑みを投げてくる。
あぁ、そう言えば聞いたことあるな。
経理部の天使って。
うん、確かに可愛いね。

「で、これ・・・・お願いします。」

今度はゴージャスな包みを手渡される。
聞かずともわかるけど・・・・・

「これは・・・・?」

一応聞かないとね。

「うふ。社長に渡して頂けますか?カード入ってますけど、経理部の百瀬からってちゃんと言って下さいね。」

言葉にハートマークがつくような可愛らしい声で、小首を傾げるから。
内心、げっ・・・・と思いながらも、一応笑顔で、決まったとおりの言葉を告げた。

「ご自分でお渡しになった方が良いと思いますよ?」

そうすると決まって同じ言葉が返ってくる。
しかも顔つきが変わるから怖い。

「はぁ。手渡しじゃあ受け取って貰えないからわざわざあなたの所に来てるんじゃない。
 社長秘書ならその辺のこともちゃんと考慮してくれないと困るわ。
 じゃ、よろしくね。」

さっきまでの天使の微笑みは何処へやら・・・・
恐ろしく怖い顔で立ち去って行った百瀬さん。
ま、もう慣れたけどね。
今日はこれで・・・・8人目?いや、9人目かな?
いずれにせよ、昼前でこれじゃあ、帰りまでに何人来ることか・・・・・

当の社長はお部屋でお仕事中。
一つ目を受け取った時持って行ったら、「仕事中にそんなモノ持ってくるな!」ってめっちゃ怒られた。
だから取りあえず受け取ったものは一纏めに袋に放り込んでいる。
帰り渡せばいいし。


結局その日、多すぎるくらい用意したあたしの友チョコは足りなくなってしまって。
途中で市販品を買いに行くはめになってしまった。



**********



「何であたしが社長へのプレゼントを部屋まで運ばなきゃいけないんですかっ!」

「秘書だからだろ。」

「でも!結構重いんですよ、これっ!ちょっと聞いてますかっ!?」

あたしの声なんて無視で。
結局あたしは社長へのバレンタインプレゼントの山を両手に抱えて、社長の部屋まで運ばされた。





「お疲れさん、ほら、飲め。」

両手が痺れてしまって、ちょっとソファーで休んでいたら。
いつの間にか着替えてきた社長が、超ラフな格好でコーヒーカップを手にしていた。
どうやらコーヒーを淹れてくれたらしい。
これだけの荷物を運んだんだから当然よ!

此処でコーヒーを飲むのは・・・・二度目・・・・
やばい、変な事思い出しちゃったよ!

忘れもしない一月前。
あたしは社長と・・・・・・き、き、キスしちゃったんだったー!!!

「いい加減、オレがお前を好きだって気付かない?」って言われて。
更に、「俺の女になれ。」とまで言われて。
二度もキスされて頭の中が真っ白になって。
気付いたら、呆然と床に座り込んでいたっけ。

結局あれって・・・・・何だったの?

翌日も、その翌日もそのことに触れることはなく仕事をしていたし。
あんな甘い台詞を吐いたとは思えないほど、鬼の形相で仕事を言いつけられていたし。

やっぱりあれって――――夢だったのかしら?

ちょっと酔っていたし、夢だと言われれば夢のような気もしてくるんだけど・・・・



「どうした、三条。」

気付いたら向かい側に座っている社長がニヤニヤとした顔であたしを見ていた。
大慌てでコーヒーを口にする。

「な、何でもありませんよ!」

「ふうん。もしかして・・・・色々と思いだしちゃったか?」

「なっ!!!!!」

この男、絶対にあたしで遊んでるよ!!
悔しいから絶対に頷かないんだから!

「何か思い出すような事、ありましたっけ?」

「くっくっくっ・・・・お前、台詞棒読み。笑える。
 ま、いいけどな。」

何がいいんだか知らないけど、反応しちゃ駄目。
相手の思う壺なんだから。

「さてと。コーヒーご馳走様でした。
 遅くなるのでそろそろ帰ります。」

駅までそう遠くはないし、歩こうかなぁ・・・と考えていたら。

「ちょっと待て。」

何故か呼び止められた。

「まだ何か?」

無言で掌をあたしに向かって差し出す社長。

「手がどうかしたんですか?」

そう聞いたら。

「早くよこせ。」

不機嫌そうな顔でそう言われた。
なんで不機嫌?
でもって、何をよこせと?

「あのー、何のことでしょう?まさかコーヒー代払えとか言いませんよね?」

社長のくせにものすごくケチなのかしら?

「お前、馬鹿か?」

「失礼ですねっ!社長が訳のわからないこと言うからでしょう!」

社長がはぁ・・・・っ溜息を吐く。

「いいから早くよこせ、チョコレート。」

「へ?運んできたチョコなら、あそこの紙袋の中に・・・・・」

「お前からのチョコをよこせと言ってるんだ!」

って怒鳴られた。

ん?あたしからのチョコって・・・・・・

「ありませんよ?っていうか、あんなに大量のチョコがあってまだ欲しいんですか?」

「お前手作りチョコ作ってただろ。食ってやるから早く出せ。」

「だからありませんってば!」

「はぁ!?」

「手作りのは友チョコ用ですから。今日社長に持ってきた方々に全部配って終わっちゃいましたよ。
 男性用の義理チョコも全部なくなりました。」

「嘘だろ。」

「嘘言ってどうするんですか。」

社長がゆらりと立ち上がって、何故かあたしの方へ歩いてくる。
壁際に逃げたらこの前の二の舞になりそうだから、思わずソファーに避難した。
そもそも何を怒っているのかさっぱりわからない。

ソファーに座ったあたしの隣に、どさりと腰を下ろした社長は、そのまま腕を組んで言った。

「お前、バレンタインのチョコは好きな男に渡す物だろう!」

「はぁ?――――だって、あたしそんな相手いませんから。」

社長の周りの空気がピキーンと冷たくなった気がした。
そしてぞっとするような笑みを浮かべてあたしの方を見て・・・・
何故かじりじりとあたしとの距離を詰めて来る。

ソファーの端に追いやられたあたし。
社長はなおも近寄ってきて。
半分ソファーの角に寄りかかっている状態のあたしの顔の両脇に両手を置いた。

ひえーっ!!何これ!?
壁ドンより怖いよ!?

「三条・・・・・・・」

社長、顔近いですっ!

「お前、俺のこと好きなんだろ?」

へ?今何て言った?
お前、俺のこと好きなんだろ?
誰が、誰を好きだって?

――――あたしが?―――――社長を?

ないないない!!!

思わずぶんぶんと首を横に振ったら。
社長の顔が益々近寄ってきた。

逃げ場はもうなし。

「チョコがないなら、もっと甘いモノ、貰わないとな。」

そう言って。



あたしにとっては、とても甘いとは言い難いキスが降って来た。



止まらないキス、完全にあたしの上に圧し掛かっている社長。


このシュチ、ヤバくない!?
ヤバイでしょー!!

「しゃ、しゃ、社長!!作りますから!!明日作って持ってきますから!!」

キスの合間にそう叫んだら。

「その約束、忘れるなよ。」

そう言ってニヤリと笑った社長。

もしかしてあたし――――



嵌められた!!!!??